物語のメモ

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植物の多様な世界_05_地球と宇宙

これから植物の多様性の話をする。
花の見分け方を見てもらいながら、進化と歴史の話をする予定だ。(全5回)

下記の構成なので、気が向いたところから見て欲しい。

第1回:タンポポとキクと花の進化
番外編:藻岩山と植物の見方とか(22/08/13)
第2回:バラ科の花
第3回:マメ科の花と葉
第4回:植物の進化(他の生き物との協力関係)
第5回:地球規模・宇宙規模の話

違いを生む違い

1〜4回では、花と実と葉を例に、細かい違いを超えて共通するパターンを見てきた。

多様性を生むもの

今回は、何が多様性を生んでいるのかについて、別角度から少し解説する。
キーワードは、遷移、ガイア仮説、星と元素の由来、MEP(エントロピ一生成率最大仮説)だ。少し難しいので、さらっとポイントだけ解説する。

遷移

なぜその植物がそこに生えるのか?ということに影響する原因として、遷移というものがある。
まずは次の写真を見て欲しい。

遷移

写真は、左から右に時間経過していく。

まず、火山噴火後のような、何もないところには、苔や草が生える。そして次第に小さい木や大きい木が生え、白樺林のような明るい森になっていく。
そしてだんだんと、ゆっくり育つナラのような木が増え、深い森になっていく。

そして、安定した森になる。
それが遷移だ。

いちおう、定義を見てみよう。

一定の地域の植物群落が、それ自身の作り出す環境の推移によって他の種類へと交代し、最終的には安定した極相へと変化していくこと。岩などの裸地から始まるものを一次遷移、植生の一部または全部が破壊されたところから始まるものを二次遷移という。

遷移(せんい)の意味 - goo国語辞書

注意して欲しいのは、遷移で時間が経つにつれ、生える草木が変わるということだ。例えば白樺や桜など、明るいところに生える木は、陽樹と呼ばれ、遷移の途中では見るが、最終段階ではほとんどみない。基本的に白樺や桜は、明るい森に生えるためだ。

一方、最終的に深い森になったときに、最後まで残っているのがブナなどの木だ。

遷移を「森の年齢」と言い換えてみる。その場合、森が年齢を重ねるにつれ、短命な草木から、だんだんと長生きする草木に移り変わっていく。次の写真を見てほしい。

森の年齢

このようなイメージで、だんだんと草木が移り変わっていく。

小まとめ

・植物の多様性には、遷移というものが影響している。
・遷移は森の年齢のようなもの。森の年齢によって、育つ草木の種類が違う

ガイア仮説

ここからは、地球規模や宇宙規模の、多様性を生む原理について見ていこう。

まずはガイア仮説だ。

地球は、実は、植物が存在しない場合に比べて、生物に適した環境で大気が安定している。温度も、二酸化炭素濃度も、酸素濃度も、生物が暮らしやすい環境に落ち着いているのだ。
次の表を見て欲しい。

大気と気温の状況(Lovelock,1979より改変して)
  火星 金星 植物がいない場合の地球 植物がいる地球(現在)
二酸化炭素(%) 95  98 98 0.03
酸素(%) 0.13  0.1以下  0.1以下 21
表面温度(℃) -53  477 290±50 13

これは、地球の近隣の惑星と、地球の環境を比較した表だ。
表面温度を見て欲しい。植物がいない場合の地球が290±50度で、居る今の地球が13度という試算になっている。つまり、植物が居ない場合の地球はおよそ300度もの高温だ。それでは暑すぎて、今の地球に暮らすような生き物なんて住めっこない。

なぜ植物がいると、こんなにも温度が低いのだろうか。それは具体的には、植物は大気中から二酸化炭素を減らすことで、地球の温度を低めているからだ。

表を見ると、植物が居る現在の地球では、二酸化炭素は0.03%。それに対して植物のいない地球では、二酸化炭素は98%になっている。そしてこの二酸化炭素は大気中にあると、地球を暖める効果を持つ。そのため、二酸化炭素濃度が低い現在の地球では温度が低くなっている。

大気中から二酸化炭素を減らしているのが植物だ。植物は光合成で、二酸化炭素を吸って、酸素を出す。それだけでなく、植物が元になった石油や石炭は、二酸化炭素を抱えたまま地中に埋まる。

そのおかげで大気が整えられ、植物も、我々も生きている。
地球上の生物が耐えられる温度を見てみよう。

生物の標準的な生存可能な上限温度
分類群  
アーキア(古い細菌) 113  
ラン藻 75  
後世生物(動物) 50  
維管束植物(陸上植物)  48  

(生物多様な星の作り方 p13より)

私たちが生きていられるのは、地球が今の環境になっているからなのだ。

ちなみに表では二酸化炭素濃度が金星が95%、火星が95%で、原始地球も限りなく二酸化炭素が多く酸素が少ない環境だった。下の図を見て欲しい。地球の大気がだんだんと変わっていくグラフだ。

植物と大気

グラフを見ると、左から徐々に、植物の繁栄とともに二酸化炭素濃度が減少し、酸素濃度が増えているのがわかる。

こういう風に、ある星に暮らす生命が「自分たちが生きて行きやすいように環境を調節する」という仮説がある。
それが「ガイア仮説」だ。

ある意味でガイア仮説は逆に考えることもできる。
惑星で何千年、何万年と生き延びられる生命は、惑星の環境を、自分たちが居心地良いように調節し得る生命だけ、と考えることもできるのだ。

ちなみにこのガイア仮説の考え方は、NASAの火星探査にも関わっていたりする。
かつてNASAが「火星に生命がいる証拠」は何かと検討したときに、「生命が存在する星は、大気や温度が本来の状態から異なっている」に違いない、ということで、このガイア仮説が提唱された。

ガイア仮説については以上だ。これ以上、ガイア仮説や地球の生命多様性について知りたければ、生物多様な星の作り方という本を読んでみてほしい。

小まとめ

・植物は地球の環境を保っていて、植物がいない地球は過酷な大気になる
ガイア仮説=生物は、自身の生存に適した環境を維持するための制御システムを作り上げている

星と元素の由来

私たちや植物を構成する元素を知っているだろうか。
植物を構成する必須の元素は17種類で、多い順に、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)で90%程度を占める。それから、窒素(N),リン(P),カリウム(K)や、カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),硫黄(S),鉄(Fe)などで構成されている。

じつは、ほとんどの元素は夜空にまたたく星で出来たものだ。

地球には約90種類の元素が存在する。

なぜこれだけの元素があるのか。
ちなみに、宇宙は誕生してから137億年と言われているが、地球は誕生してまだ46億年と、かなり若い星の一つだ。この若い地球は、何からできているのか?

それは、地球より前にあった星の残骸からできている。星というのは過去の星の残骸で出来ているため、若い星であればあるほど、昔の星の残骸が色々集まってできているのだ。

そのため、地球には様々な元素があるのだ。

そして、元素の由来は、夜空にまたたく星だ。

太陽

太陽も含めた夜空の星は、全て元素を作っている。

宇宙の元素の由来は二つに分けられる。宇宙誕生の時の元素と、その後作られた元素だ。
宇宙誕生のときに出来た元素は、水素やヘリウムみたいな軽い元素だけで、それ以外の元素は宇宙の年齢が進むに従って、あちらこちらの恒星で作られた。つまり、ほとんどの元素は恒星という夜空の星で作られたのだ。

星はいずれ燃え尽きる。
太陽も、あと50億年程度で燃え尽きると言われているが、その時に燃えて、元素が宇宙に散らばって、また次の星の材料になる。だから、植物や我々の体は、そのほとんどが星で出来たもだ。
ちなみに、元素番号が大きい金属などは、より明るく、重い星で作られる。明るさと重さは比例していて、より明るい星は、より重く、重い星だけが大きい原子番号の原子を作ることができるのだ。

ちなみに、太陽より何十倍も重い星は、最後に超高温高圧状態を経て爆発する。それを超新星爆発と言って、その時に、原子番号の大きい元素が出来る。

超新星爆発

たとえば、銅や金やプラチナなどの、重い元素は超新星爆発で出来る。ある意味で現代文明を支える重金属は、全て超新星爆発という宇宙の花火が由来なのだ。

詳しくは、僕らは星のかけら という本を読んで見て欲しい。

小まとめ

・植物も、我々も、星のかけらで出来ている
・重い元素は、より明るい星で作られる

MEP(エントロピ一生成率最大仮説)

最後にエントロピーについて触れる。かなり難しいので、比喩と引用で話を組み立てる。
まずイメージをおさえよう。

例えば、水の中に、一滴の絵の具を落とすことを考えて見て欲しい。最初のうちは絵の具はまとまっているが、次第に拡散し、最終的には均一に水の中に広がり、全体が薄く色がつく。それがエントロピーが増大するイメージだ。

宇宙を例に考えてみよう。今の宇宙は、星・星系・銀河系という秩序だった世界で出来ている。しかし、最終的に、全ての秩序は無秩序へと還る。全ての恒星は燃え尽き、熱と物質を散らばらせる。そして宇宙全体に均一に広がる。

では、エントロピーの定義を見てみよう。

エントロピーとは、不可逆性や不規則性を含む、特殊な状態を表すときに用いられる概念である。簡単にいうと、「混沌」を意味する。もともとは熱力学において、エントロピーという言葉は使われ始めた。すべての熱をともなう物体は、「高い方から低い方へと流れる」という方向性を持っている。しかし、逆に、低い方から高い方には流れない。逆の現象は起こらないので、「エントロピーが発生している」と表現することとなる。

熱力学で頻繁に用いられる理論が、「エントロピー増大の法則」である。エントロピーは、物質が存在し続ける限り増大し続ける。外部から何らかの働きかけをしてやらない限り、エントロピーが減少することはない。言い換えれば、物事は秩序から始まり、自然に無秩序へと向かう可能性はあっても、さらなる秩序を目指しはしない。

「エントロピー」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

そこで鍵になるのが、エントロピーがどのように生成されているかだ。
結論からいうと、地球のように、外部から(太陽から)エネルギーが供給される「非平衡系」のような世界では、エントロピーの生成率が最大になるように動く、という仮説がある。それがエントロピ一生成率最大仮説(MEP)だ。

そしてこのMEPは、ある意味で「物事が生じる根源的な法則」の候補として考えられている。
例えばひつじ雲(ベナール対流)・雷・海洋の対流などが、この法則によってもたらされた現象だと考えられている。

ちなみに、エントロピ一生成率最小仮説というのもある。いったん、話を進める前に、両者の解説を見てみよう。

非平衡系の安定性に関して,次の 2つの仮説が知られている.ひとつは,エントロピ一
生成率最小の仮説 (Prigogine,1955) で,非平衡系はエントロピ一生成率が最小となる状
態で安定化するというものである.
これは,第二法則によると孤立系のエントロピーは最大に向かうので,非平衡系でも系が安定な状態では そのエントロビーは最大に近いと考えれば,その生成率は最小になるであろうという主張である.もうひとつは,エントロピ一生成率最大の仮説 (Sawada,1981)で,先ほどとは逆に,非平衡系はエントロピ一生成率が最大となる状態で安定化するというものである.
これは,非平衡系は,もともとより大きな環境の非平衡を解消しようとして発達するのであるから,その環境の非平衡をより効率よく解消できる状態,すなわち,よりエントロピ一生成率の高い状態に遷移していくであろうという主張である.前者は,線形平衡に近い系(すなわち,熱伝導の領域)においてのみ成り立ち,大気や海洋のような非線形度及び非平衡度の高い系においては後者が成り立つ可能性が高いと考えられている.

海洋大循環の熱力学とその応用(環境物理学-先端境界領域の創出へ向けて-,京都大学基礎物理学研究所研究会報告書(YITP-W-06-02))

実際に、非生物領域では検討が進んでいる。

例えば雷。

雷は、電気のエネルギーが蓄られた雲から、轟音を立てて地上に降り注ぐ。そしてこの雷によって、電気エネルギーを放出する際のエントロピーの増大率は最大になると考えられている。

本来、雲は、別にゆっくり電気を放出しても良い。しかし、その際は、エントロピーの増大の仕方は非常にゆっくりだ。しかし一方で、電気エネルギーを最速で放出することによって、雷はエントロピーの増大率を最大化する。

そして例えば海洋の対流も、ありうる対流の中から、一番エントロピーが増大しやすい対流になっていると考えられる。(海洋大循環の熱力学とその応用

雷も海の対流も、ある一定の形(秩序)をなすことで、逆にエントロピーが増大しやすくなっているのだ。

つまり、局所的に秩序状態を保つ方が、無秩序状態より効率的にエントロピーを生成できると考えられる。

さらに、生命は秩序を用いてエントロピー生成を速める雷のようなもの、と考えることもできる。原始の地球は、偏ったエネルギーの貯蔵庫で、非常にゆっくりとエネルギーを放出して、エントロピーは徐々に増大していった。それを助け、エントロピーを増大しやすくしたのが生命だった、という仮説も考えられている。

もしかしたら、生命は、無秩序に向かおうとする世界の中で、世界に抗する秩序として存在しているのではなく、無秩序に向かうための秩序として存在しているのかもしれない。
MEPについて詳しくは、生物多様な星の作り方枝分かれ (自然が創り出す美しいパターン3)などを参考にして欲しい。

いずれにせよ、もしこの法則が非生物だけじゃなく生物にも当てはまるとしたら、人にもそれが当てはまるのか、そして意思や価値観にも影響しているのか、個人的にはそれが気になるところだ。

ちなみにエントロピー生成率を用いて「惑星に生命が居るかどうか」を判定しようという考え方もあるらしい(まだ全然進んでないらしいが)。

MEPについての話は以上だ。この仮説の真偽は別としても、物理法則と生物現象がどういうふうに絡み合っているかというのは面白いところだと思う。

あとがきがわりに

今回は、少し大きなパターンの話をした。

テーマは「違いを生み出す違い」ということなので、いちおう一貫しているが、ガイア仮説、MEPについては、かなり難解な上、私の知識は10年程度前のにわか知識なので、解説に自信がない。誰か有識者がいたら、ぜひ教えて欲しい。

最後に、記事の経緯について。前にも少し触れたが、もともと、5回分の記事のもとになった話がある。「やる夫とやらない夫で辿る植物の世界(2014)」という植物を紹介する話だ。今回はそれをセルフリメイクしたものだ。

yaruok.blog.fc2.com

リメイクした理由は、下記だ。
アスキーアートと呼ばれる特殊な形式なため読みにくく、冗長な部分がある
・友達や知人に植物について学ぶのに「これ読めばいいよ」というものを用意したかった

これらの理由から、今回、要点だけ再構成して記事にした。

その試みがうまく言っていると良いと思う。

もし、ここまで読んでくれた人がいればありがとう。