物語のメモ

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植物の多様な世界_04_植物の進化

これから植物の多様性の話をする。
花の見分け方を見てもらいながら、進化と歴史の話をする予定だ。(全5回)

下記の構成なので、気が向いたところから見て欲しい。

第1回:タンポポとキクと花の進化
番外編:藻岩山と植物の見方とか(22/08/13)
第2回:バラ科の花
第3回:マメ科の花と葉
第4回:植物の進化(他の生き物との協力関係)
第5回:地球規模・宇宙規模の話

違いを生む違い

1〜3回では、花と葉を例に、細かい違いを超えて共通するパターンを見てきた。

今回は、進化という背後のパターンについて、もう少し話をしよう。

植物と虫や動物の協力関係

花の形は、単純な形から複雑な形へ進化してきた。下の図を見てほしい。下から上に進化し、次第に形が複雑になっていく。一番上の進化の最前線に位置するのが、キク科やキンポウゲ、ラン科の花だ。

花の進化の概略

しかし、実のところ、形は植物の都合だけで進化するではなく、他の生き物との関係で進化してきた。言うなれば、花(&実)には、他の生き物との関係性が刻み込まれているのだ。

特に、花や実には、虫や動物の影響が大きい。

次の写真を見て欲しい。

ハチと花

シロツメクサとアザミをハチが受粉している様子だ。
ハチが花の蜜を吸うため飛び回ることで、花の受粉を促している。
多くの花は、ハチなどの虫が受粉する。これはお互いに利益のある関係で、花はハチがいないと受粉できないし、逆にハチも生きていけない。

次の写真を見て欲しい。ハチが蜜を一生懸命吸う中で、花粉が体についている。

ハチと受粉

虫や動物は植物のパートナーなのだ。
こうした、虫や動物と共に生きる植物は被子植物と呼ばれる。
被子植物は、進化の最後に出てきた植物のグループだ。それを理解するため、少し植物の歴史を振り返ろう。

植物の進化

単純にいうと、植物は次のような進化(分岐)をとげてきた。
藻 →→ 苔→→ シダ →→ 裸子植物(針葉樹など) →→ 被子植物
同時に、その過程で酸素が大気中に増えてきた。次の図を見て欲しい。

植物と大気

ラン藻や真核藻が増え、それから陸上植物(苔・シダ・裸子植物被子植物)が歴史的に出現し、徐々に複雑な植物になっていったのだ。

初期の陸上植物である苔は、原始的な植物で、まだ地面に這いつくばることしかできない。草や木のように体を直立に支えることができないのだ。

その後、シダが地球に出現し、裸子植物が出現した。シダも裸子植物も、重力に逆らって体を支えることができる植物だ。  

シダ

恐竜が生きていた2億年ほど前は、地球上はシダとマツ・イチョウなどの裸子植物で覆われていた。

花や実をつける被子植物が出現したのは、その後だ。
人類が動物の進化の最前線であるように、花や実をつける被子植物は植物の進化の最前線だ。

では、被子植物がどのように他の生き物と共生しているか見てみよう。下の写真を見て欲しい。

エゾエンゴサク

花は虫に受粉してもらうために蜜を用意している。上の花は、赤く囲まれた部分に蜜があり、虫が蜜を吸う時に、花粉が身体につく。

蜜を吸った虫は飛んで行って、他の花でも同じように蜜を吸う。そして花粉が交わって受粉する。

そのように、花は蜜という手段で虫を呼び込み、受粉してもらうのだ。

例えばスミレも同様で、花の後ろに蜜を貯め、虫に来てもらう。

スミレ

スミレは、虫に正面から入って来てもらい、奥の蜜を吸ってもらう(赤い部分が蜜のある所)。その過程で花粉が虫の身体につくのだ。
ある意味で、スミレの正面中央の模様は、虫にとっての滑走路だ。模様で「ここに着陸してほしい」と誘導し、そこから奥に入ってもらうのだ。

紫外線の模様

多くの花はカラフルさで虫をひきつける。その時、虫の目に見えやすい紫外線を用いて、蜜のある場所を示すこともある。
下の写真を見て欲しい。

紫外線と花

左が人の目で見た菜の花で、右が虫の目(紫外線)で見た菜の花だ。人の目には全て黄色に見えるが、虫の目には、中央に模様が見えるので、そこによってくる。

花はこうして一番のパートナーである虫にアピールしているのだ。

地味な風媒花

しかし、花粉の媒介を風に頼る花もある。風媒花(ふうばいか)と呼ばれ、目立たない花をつける。虫に頼らないので、地味な花で良いのだ。

風媒花

ヨモギもブタクサも、緑っぽい花をつける。一見すると、花とはわかりにくい。
そしてこうした風媒花は、花粉が大量にばらまかれるため、花粉症の原因になる。例えば、スギやヒノキ、シラカバ、ケヤキなどは全て風媒花で、花粉症の原因になる。

果実の生存戦略

ここからは、花ではなく実を見ていこう。

花だけでなく実にも、他の生き物との関係性が刻み込まれているのだ。具体的には、実と種を動物にばらまいてもらっている。

次の写真の、実の色に注目して欲しい。

鳥が食べる実

赤い実や黒い実は、鳥やリスなどの動物をひきつける。動物の目につく色になっているのだ。
実の中には種が入っており、食べた鳥が糞をすることで、種がばらまかれる。動物は餌を得ることが出来て、植物は種をばらまくことができる。どちらもwin-winの関係だ。こうして、動物と植物は共にメリットのある形で生きている。

オンコの実

子供の頃に食べたオンコの実も、本来は小動物によって種がばらまかれる。
また、赤い実だけでなく、どんぐりも動物によってばらまかれる。

どんぐり

どんぐりは、ネズミやリスによって、土の中に埋められ、食べ忘れた実から芽が出てくる。

さきほどの赤い実は、食べられて、種が糞となり、そこから芽が出てくる。一方でどんぐりは、食べられなかったものから芽が出てくるのだ。

ちなみに、どんぐりは帽子の形が見分ける手がかりになっている。写真をもう一度見て欲しい。コナラの帽子はすっとしているが、ミズナラはでこぼこしているのがわかるだろうか。機会があれば見て欲しい。
(ちなみに、カシワのどんぐりが、帽子の形がかなり面白い)

くっつき虫

また、動物が運ぶ種として、くっつき虫と呼ばれるものもそうだ。くっつき虫とは特定の植物のことではなく、動物の毛や人の服につきやすい実や種のことを言う。
例えば、森や林をあるいて、ズボンの裾にたくさんの種がついてきたことがあるだろうか。あれがくっつき虫だ。

次の写真を見て欲しい。色々なくっつき虫がある。

くっつき虫

ゴボウも、キンミズヒキも、人の服や動物の毛にくっつく。ひっかかりやすいように、表面がトゲトゲだったりフック状になっているからだ。そうして、くっつき虫は遠いところに種を飛ばすのだ。

風で飛ぶ種

さきほど、花には風で花粉が飛ぶ花もあるという話をした。
種も同様に、動物の力に頼らず、風を利用して飛ぶものもある。
そういう種は、風を受けやすい形になっている。

風で飛ぶ種

カエデの種も、シナノキの種も、羽がついているのがわかるだろうか。羽によって風を受け、種が飛んでいく。
(※カエデの種は、羽に埋め込まれているが、シナノキの種は羽と種が独立している)

まとめ

・花も実も、虫や動物にアピールする作りになっている(お互いにメリットがある関係)

・風で飛ぶ花と実は、虫や動物にアピールする必要がなく、風を受けやすい作りになっている

補足:菌類との共存

花や実は、植物が他の生き物と共に生きている証だ。

しかし、目に見えにくい形であるが、植物は菌類とも共に生きている。

マツを例に見てみよう。マツは海岸に生えることが多い。他の木がほとんど生えていない場所でも、マツだけは生えていることがある。なぜだろうか。

それは、マツと一緒に生きている菌のおかげだ。

マツ

マツには根につく菌類が欠かせない。菌根菌と呼ばれる菌類が、土の中で栄養を吸収したり、塩の被害から守ってくれる。そのようにマツと菌類は共生している。

日本三景天橋立のような景色は、こうした菌類と植物の共生のたまものだ。

おまけ:葉などの形は環境の影響が大きい

これまで、色々な花や実について見てきた。あまり葉について触れなかったのは、葉や茎は、花の進化とは別のパターン(気候・環境・遷移)に影響されることが多いためだ。

つまり、花よりも、一般的に「生態系」と呼ばれるものに影響されて、姿形が変わるのだ。

例えば、同じマメ科でも、環境によって、大木だったり、小さな木だったり、草だったりする。次の写真を見て欲しい。

マメ科の4種

上の花は全てマメ科だが、それぞれの環境下に適応しているため、葉や茎の姿形がまったく違う。木だったり、草だったり、つる植物だったりするのだ。

最後に、いろんな草木の姿形について見てみよう。

たとえばまず、つる植物だ。つる植物は他の木に絡みついて成長する。
小学校の頃に朝顔を育てたことがあるだろうか。あれがつる植物だ。
いくつかのつる植物を見てみよう。

つる植物

つる植物にも木と草がある。

上の写真の中では、フジが立派な木だ。絡みついているのが、がっしりとした木であることがわかる。

道端でよく見かけるいちごも、大体はつる植物だ。

イチゴ

いちごは、花壇や森から這い出て来て、道端によく侵入している。イチゴは繁殖力が強いので、夏にきっと見つけることができるはずだ。

他にも、寄生植物や腐生植物という、他のものから栄養をとって生きる形もある。

寄生植物と腐生植物

上の段のネナシカズラヤドリギは寄生植物で、下の段のヒトツバイチヤクソウとギンリョウソウは腐生植物だ。寄生植物や腐生植物は、光合成をしないことが多く、植物なのに緑ですらなくなっているのだ。

他にも、日本ではあまり見ないが、着生植物という形もある。樹上の木にへばりついて生きる植物だ。

着生植物

着生生物で有名なのは観葉植物のエアープランツだ。もともと樹上や岩の上に育つので、土がなくても育てることができる。

このように、茎や葉というのは、その場その場で生きるために、そのような姿形になっている。

花の進化とは別のパターン(気候・環境・遷移)に影響されることが多いのだ。

ちなみに、タンポポの葉のような地面に広がった葉も、環境の影響でああいう形になっている(ロゼットという葉っぱ)。

なぜ、ああいう葉になっているのか、気が向いたら調べてみて欲しい。

(キーワードは越冬)