物語のメモ

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植物の多様な世界_01_タンポポとキクと花の進化

これから植物の多様性の話をする。
花の見分け方を見てもらいながら、進化と歴史の話をする予定だ。(全5回)

下記の構成なので、気が向いたところから見て欲しい。
第1回:タンポポとキクと花の進化
番外編:藻岩山と植物の見方とか(22/08/13)
第2回:バラ科の花
第3回:マメ科の花と葉
第4回:植物の進化(他の生き物との協力関係)
第5回:地球規模・宇宙規模の話

タンポポ

最初にタンポポの話をしよう。
セイヨウタンポポを知っているだろうか。タンポポの一種で、普段私たちが街中で見かけるタンポポだ。

セイヨウタンポポは「札幌の開拓時代に持ち込まれて、野菜として食べていた(wiki)」らしい。
しかし、これからするのは、花の話だ。 

例えば、目の前に似たようなタンポポっぽい花が幾つかあった時に、それを見分けられるだろうか?

タンポポ3種

この3つは実際にはそれぞれ違ったタンポポだ。
左から、セイヨウタンポポ、日本のタンポポタンポポモドキだ。

タンポポ3種

見分ける方法は、下の写真の赤い部分を見て欲しい。
まず、セイヨウタンポポと日本のタンポポは、花の裏の葉っぱが反り返っているかどうかで見分けがつく。

セイヨウタンポポと日本のタンポポ

反り返っているのがセイヨウタンポポで、反り返っていないのが日本のタンポポだ。

また、タンポポタンポポモドキ(ブタナ)の違いは、下の写真を見て欲しい。
花の茎が途中で分岐しているかどうかで見分けられる。

日本のタンポポとブタナ

セイヨウタンポポであれ日本のタンポポであれ、花の茎(花茎と呼ぶ)は、途中で分岐しないが、タンポポモドキ(ブタナ)は分岐する。花はよく似ているが、その点で見分けられる。

まとめると、次のようになる。

タンポポっぽい花を見つけた場合

・花の茎が分岐している →→ タンポポモドキ(ブタナ)
・花の茎が分岐していない →→ 花の裏が反り返っている →→ セイヨウタンポポ
・花の茎が分岐していない →→ 花の裏が反り返っていいない →→ 日本のタンポポ

もし街中や空き地、森で見かけたら、少し見てみて欲しい。
(※なお、実際には、目にするタンポポのほとんどはセイヨウタンポポとブタナで、日本のタンポポはほとんど見かけない。なぜかというと、基本的に、日本のタンポポは森や草原に生えるためだ)

キク科の花

そういえば、あなたはタンポポの綿毛を見たことがあるだろうか。一つの花から、たくさんの綿毛がぶわっと飛んでいく。

子供の頃に、綿毛をフーっと吹いて飛ばした人もいると思う。

あの綿毛一つ一つは種であり、それぞれ違ったところに飛んでいく。

そして、それだけ一つの花に種がつく、ということは、実はタンポポの花は無数の花が集合したものだ。
一つの花のように見えて、実はたくさん花が集合した花である__それこそがキク科の花の特徴だ。

次の花を見て欲しい。

キク科の3種

コスモス、ひまわり、ヒメジョオンはどれもキク科の花だ。花の作りがなんとなく似ているのがわかるだろうか。
さきほど見たタンポポも、どれもキク科というグループの仲間だ。
そして、花は科が共通していると、花の作りが共通していることが多い。
具体的にどうなっているのか、次の写真を見て欲しい。別の花だが、キク科の花の作りを示している。

キク科の花

キク科の花は、中心に筒状の花である「筒状花」が集まり、その周囲に花びらである「舌状花」が取り囲んでいる。
上の写真はツワブキという花だが、コスモスやひまわりはどうなっているか見てみよう。

キク科の3種

コスモスもひまわりもヒメジョオンも、中心に「筒状花」があり周りに「舌状花」がある。そういう花の作りになっている。

これがわかると、何が楽しいだろうか?
もしキク科の花の作りがわかると、野外で似たような花を見たときに、少なくともキク科の花だ、とわかるようになる。

例えば、何か赤い花を見て、1つ1つの花がすごく密集して、大きな1つの花になっているとしよう。そのとき、「この赤い花はキク科の花だったな」と思うことができる。

それが科がわかる楽しさだ。

そして、そういうような、細かい違いをこえて共通するパターンについて、今後も解説していく。

では、キク科の花について、もう少し詳しく見ていこう。

キク科の花2

さきほど、キク科は中心に筒状の花である「筒状花」が集まり、その周囲に花びらである「舌状花」が取り囲んでいる、と解説したが、微妙にそうでないこともある。

次の花を見てみよう。どれも実はキク科だ。

キク科の6種

先ほど見たように、ひまわり、コスモス、ヒメジョオンは通常のキク科の花だ。

しかし、マリーゴールドタンポポ、アザミはなんだか様子が違う。
どうなっているのだろうか。

まずはタンポポから見ていこう。
タンポポは、実は中心部に「筒状花」がなく、花びらである「舌状花」しかない。だから、コスモスやひまわりと少し印象が違う。

次にアザミを見ていこう。
アザミはタンポポの逆で、中心部の「筒状花」だけで出来ている(花びらがない)。

このように、キク科の花には3種類のタイプがある。
「筒状花」と「舌状花」が片方だけある場合と、両方ある場合の3つのタイプがあるのだ。

なお、マリーゴールドはやや特殊で、前提が違う。園芸用の花だからだ。
マリーゴールドにも「筒状花」と花びらである「舌状花」があるが、わかりにくい。
基本的に「園芸用の花」というのは、花びらを大きく、何重にもなるように品種改良されているため、元の科の特徴が見分けづらいのだ。そのため、マリーゴールドは、キク科の花とわかりにくくなっている。

まとめると、キク科の花では次の3パターンがある。
・「筒状花」だけの花(アザミ)
・「舌状花」だけの花(タンポポ
・「筒状花」と「舌状花」の両方の花(ひまわり、コスモス、ヒメジョオン

この3パターンにあてはまる花を野外で見たときに「キク科の花だな」と思って欲しい。

花の進化

ここまで、キク科について、細かい違いをこえて共通するパターンについて見てきた。
ここからは、キク科をこえた大きなパターンについて見ていこう。
花の進化についてだ。

実は、キク科は花の中で最も進化した科であり、2万種を超える種がいる。この世界で最も複雑な花と言える。

では逆に、進化する前の、昔の花はどうだったのか?

花の進化を理解するために、まずモクレンの花を見てみよう。

モクレン

ハクモクレンなどモクレン科は、1億年以上前に誕生した、最古の花をつける植物の仲間だ。

注目したいのは、花の大きさだ。さきほど、キク科の花は、花びらの1つ1つがそれぞれ小さな花だった。しかしモクレンは、この大きなものが1つの花だ。スマホより大きく、ごく単純な形をしている。

そして、花はこうした単純な形から、次第に進化を遂げ、キク科のような複雑な形になっていった。次の図を下から見て欲しい。花の進化の概略図だ。

花の進化の概略

モクレンのような、単純な形や放射形から、花は次第に進化を遂げ、複雑な形になっていく。
キク科はその最前線だ。*1

他にも、図の左上の6に位置するラン科も進化の最前線であり、キク科と同じくらい種数が多い。そして、複雑な花の形をしている。少しだけ見てみよう。

ラン科の3種

ラン科は基本的に左右対称だ。上のランは、どれも日本の野生のランであり、森の中に生えている。また、洋ランはホームセンター等で園芸用のランとして見ることも多い(下の写真)。

洋ラン

 

少し脱線したが、まとめよう。

違いを生む違い

花には、進化の過程がわかりやすく刻み込まれている。そのため、グループを見分けるコツとしても利用できる。

キク科の花には、「筒状花」と「舌状花」という共通するパターンがある。

そして、キク科の花自体も、進化という大きなパターンの一部である。

今後の記事でも「違いを生み出す違い」としてのパターンや進化の話をしていく。
つまり、これから解説するのは、植物の見分け方の話であり、同時に、自然や進化の話でもある。

さしあたって、第2〜3回は代表的な科の花と、葉についても少し見ていく。バラ科マメ科を例に。

よかったら次も読んで欲しい。

おまけ:科ではなく属で花が共通している場合もある

基本的に、科単位で花が似通っているが、科より細かい属単位で見た方が良い場合もある。

例えば、キンポウゲ科は属でだいぶ花が違う。下の写真を見て欲しい。

キンポウゲ科の3種

上の写真の、ハイキンポウゲ、フクジュソウトリカブトはどれもキンポウゲ科だが、それぞれ属が違っていて、花が似ても似つかない。そういう場合は、属では大まかに花が共通していることがあり、属から見分けることができたりする。
下の写真を見て欲しい。

キンポウゲ科の属

上の段、下の段はそれぞれ属が共通しており、花が似通っている。フクジュソウ属はフクジュソウ属で似通っているし、キンポウゲ属はキンポウゲ属で花が似通っている。このように、科ではなく属で大きなパターンが共通している場合もある。

 

*1:図中で「合着雄ずい」となっているのが、一般的には集葯雄しべ(syngenesious stamen)と呼ばれる。キク科など、花の中の、全部の雄しべのが合着して管状となったものだ)