物語のメモ

物語・植物・心理学・文化人類学・IT等について/月1回更新目標

表現における連続体_爽やかさとじめじめ

以前、こちらの記事で『連続体』という日本文化において好まれる価値観について書きました。
連続体というのは、『個体を超えた連続的なもの』『区切られていないこと』『限界のないこと』などを指します。たとえば物語のモチーフとして『継承』が好まれたりする、という価値観です。
今回は、単語や表現レベルでの連続体について、ぼんやりとしたイメージ的な検討をします。

流れの良い表現、悪い表現

言葉において、連続体を阻害するものは印象が悪い。
じっとり、ぎとぎと、どろどろ、ぐだぐだ、げーげー、もじもじ、まごまごとか、濁音が混じるもの。濁音は流れを阻害して印象が悪い。
じとじとする天気、ぼそぼそで話す、とか。そういう表現。濁音がついているだけで、印象が悪くなる。例えばキラキラより、ギラギラは印象が悪い。びくびく、どかん、ギリギリ。あんまり印象が良くない。
濁音以外でも、流れがまっすぐじゃない言葉は印象が悪い。よろよろ、もやもや、ねちねち、めそめそ、ぬるぬる、のそのそ。ふらふら、だらだら、とぼとぼ、のこのこ。

擬音じゃなくても、流れがまっすぐじゃないものは印象が悪い。胸につかえる。ざらついた思い。口ごもる。言葉に詰まる。金に溺れる。嫉妬が渦巻く。まとわりつくような話し方。粘ついた声。全て、流れが滞っていたり、蛇行したり。

逆に、流れが良いものは印象が良い。滑らかに言う、歌うように話す、すっとした気分、つるつるした表面、するすると滑り落ちる、きびきび動く、すたすた歩く、ふんふん頷く、はきはき答える。言葉がほとばしる。パーッとお金を使う。

流れを止めるのは、印象が悪くない場合でも強い印象になる。じっと見る、ばっさり言う、ばったり出会う。悪い印象ではないが、流れを断ち切ることで記憶に残る。
また、流れがよくも悪くもないものは中立的な感じ。
そろそろ、しずしず、ひたひた。りんりん。とんとん。ころころ。こういうのは、良い印象も悪い印象もない。

連続体と乾湿の重ね合わせ

『連続体←→連続体の阻害』という軸は『乾←→湿』の軸と時々重ね合わせられるかもしれない。
乾=流れが良いイメージ、湿=流れが悪いイメージ。
乾に属する表現は、パリッとした、べたつかない、さっぱり、さわやかな風。
湿に属する表現は、じめじめした、じっとりと、うじうじ、暑苦しい。
乾は流れがよくて、湿は流れが滞っている。カラッとしているのは気分がよくて、陰口はじめじめしている。潔くさっぱりしているのはイメージがよくて、うじうじしているのはイメージが悪い。ジャパニーズホラーはいつも湿っている。
ネットスラングの『陰キャ』は日陰で湿っているイメージ。笑い声の「(ニチャァ」という擬音は湿っている。

一方で、湿っていても流れを阻害しない(流れと無関係な)単語は、イメージが良かったりする。
潤い、澄んでいる、みずみずしい。湿っていても流れを阻害しなければ良いイメージ。しっとりとしてべたつかない、コクがあるのにさっぱりとしている、とか。
湿っているのに流れが良い、その極致が、清らかな水=清浄。

エフェクトによる表現

アニメのOPでよくある、草原を走るのは、さわやかさ=清らかな流れの演出か。
あるいは、アニメ・ゲーム等で、キャラの消滅が光の粒子となって、淡くぼんやりと消える表現。光となって溶け込む、という無界性のあらわれか。舞-HiMEとか。

レトリックによる連続性

韻を踏むことは、言葉と言葉に連続性を作ること。
漢詩や英語詩の頭韻、脚韻など、異なる言葉の頭や末尾の表現を同じにすることで、連続性をつくる。
レトリックでも同じ。

たとえば首句反復

首句反復は、前の文の最初にあることばを、次の文の最初でもう一度くり返すレトリックです。

つまり、先行する文の文頭で用いられた語句を、次の文の文頭でふたたび使う技法。

首句反復の例

「 同じ町にいて
 同じ思い出があって…
 同じ時間を生きる……
 ごく普通のことだけど………そういうのが時々…すごくうらやましくて…」

A「いらっしゃませ、うちのパンはバターたっぷり、ムショーに美味しいですよ!」
B「ムショーに元気の良いパン屋さんだな。」
A「うちのくるみパンは、新鮮なくるみまみれ。ムショーに香ばしいですよ」

「この被告人についているのがプロ級の目玉かプロ級の節穴か、そんなことは関係ない」
 出典:逆転裁判シリーズ

頭に連続性があると、リズミカルでテンポがいい。

くびき語法

2つ以上の名詞に同じ形容詞(動詞)がかかるとき、形容詞(動詞)を1回だけにする。

マッキーの
 言葉が
 夜空に 響く
 遠く 高く あたしの心にも——…

くびき語法の例

私のお腹がザブザブいってるよ…紅茶で
僕のお腹の中でも、大海の荒波が荒れ狂ってるよ…紅茶の
出典:逆転裁判シリーズ

彼はズボンを、俺は旅行を放ってきたんだぞ
間の抜けた顔で気の抜けたことを
出典:インド映画、きっと、うまくいく

お尻に連続性があると、「うまいこといった」感がある。

くびき語の応用

サイバンチョ 「でもそれは証人の“見間違い”では‥‥?」
アヤメ 「“描き間違い”かもしれませんわっ!」
ゴドー 「いっそアンタが“場違い”だぜ、まるほどう!」
出典:逆転裁判wiki

 

首句反復&くびき語の応用

潔白ではない
ウス汚れてウソまみれの、ドス黒くてハラ黒い
覗き魔だよ
出典:逆転裁判シリーズ

頭とお尻に連続性があると、テンポが良くて、うまいこと言った感もある。

このように、異なる言葉の頭や末尾の表現を同じにすることで、連続性をつくり、表現を工夫することができる。